最初に聴いたときは、気が付かなかったのですが、よくよく聴いてみると、曲の雰囲気と歌詞の内容が、かけ離れていることに驚かされました。柔らかい雰囲気が漂う爽やかなボーカルに反して、歌詞は愛憎劇を思わせるような深刻な展開。内容がまるでブラックで飲むアイスコーヒーのようで、余りにも苦々しくはありますが、このコントラストが最高ですね。歌詞の世界観がブラックコーヒーなら、ボーカルはコーヒーフレッシュのような存在とでも言うのでしょうか。
文学的表現が随所に散りばめられている、この曲を作詞しているのは、作詞家&小説家でもあり、エッセイストでもある銀色夏生さん。彼女がプロデュースするセルフユニット、それがこの銀色プレゼンツです。毎回、ゲストという形で、様々なボーカリストを迎えます。そして銀色ワールドの世界観を歌詞に乗せて、一つの作品として昇華します。
銀色夏生作詞作品のみを販売するレーベル「サマーボーンレコーズ」制作の第2弾作品。今作では声優の原田晃さんとのコラボレーション。原田さんは爽やかで優しい歌声の持ち主。ボーカリストとしての清涼感を持ち合わせています。ちなみに作曲は、原田さん自身が担当されました。
夏の日差しの中、喫茶店で別れ話をする恋人たち。男の方は火遊びのつもりだった。女の方は本気の恋だった。男は女の気持ちを分かっていた。それでも男は女のものにはならなかった。コップの淵についた水滴が、緊迫した状況を表現する汗のようにも感じられます。
愛しているからって 君のものにはなれないよ どんな人も君のものじゃない 自由なはずだ
そして最後に去っていく男の姿。都合が悪くなったから、別れを切り出しているような、若干、男性の独りよがり的な部分が見えてしまう歌詞ではありますが、逆に女性の方はもしかしたら、束縛癖などがあったのかもしれません。そういったリアルな部分も含めて、この作品の魅力だと思います。何となくドラマのワンシーンのような、切実な雰囲気が漂っています。
アイスコーヒーの氷が だんだん溶けていけば コップのふちの透明な湖の中に この店もこの街も どんどん吸い込まれてく ほら
コップの淵に出来る透明な水を、湖に見立てるという、この辺りの表現は、小説家ならではというか、強烈な個性を感じました。歌詞と曲のギャップといい、優し気で爽やかな原田さんのボーカルといい、完成度のかなり高い作品だと思いました。
今後の作品では、誰がボーカルを務めることになるか不明ですが、この作品で終わるのは、勿体ないような完成度の高さです。ボーカリストとしての巧さだけではなく、作曲のセンスを感じる原田さんとのコンビは、まだまだ可能性を感じました。初夏のまどろみに身をまかせながら、聴き浸りたい名曲だと思います。
※2011年04月05日(火)公開の記事に、加筆修正致しました。
ボーカル:17
メロディ:19
歌詞:19
アレンジ:18
個性:17
TOTAL:90