現代の音楽業界の中で、アイドルは音楽の一ジャンルを築いています。正確には音楽性を表すジャンルではなく、グループの形態を表す名称となりました。ビジュアル的な魅力を売りにした、ボーカル&ダンスユニットのことを指す代名詞とでも呼ぶべきでしょうか。最近のアイドル業界の中身を見てみると、実力派プロデューサーがバックに付くことで、音楽性も多種多様になり、面白いパフォーマンスをするグループが増えた印象です。ブームがひと段落したこともあり、市場はアイドルバブルの頃と比較すると落ち着きを取り戻していますが、コロナ渦の中でも活動を続けるユニットは、個性を磨くことで生き残り、アイドル業界はまた新たなステージへと進んだような印象があります。
突然の告白になりますが、自分は昔、女性アイドルの存在が好きではありませんでした。正確には認めたくないという感情が若干ありました。昔の自分はクリエイター至上主義、セルフプロデュースこそが理想のアーティスト像だと考えていたので、アイドルのようにパフォーマンス以外のクリエイティブな部分を、外部に委ねるアーティストは、敬遠しがちだったのかもしれません。ただいくつかの要因が重なって、考え方は少しずつ変化していきました。そこで自分の考えが変わるに至った、いくつかの理由を挙げてみたいと思います。
2009年くらいに偶然、テレビのバラエティ番組で、指原さんを知りました。ファンの自分がこんなことを言うのもなんですが、アイドルの中で特別、見た目が可愛いというわけではないとは思います。ただトークが面白かったので、キャラクターを含めて、次第に好きになっていきました。彼女が所属していたのが、AKB48というグループであった為、それがきっかけとなり、初めて真面目にAKB48の楽曲を聴くようになったのですが、良曲が多くて本当に驚かされました。最初にアイドルに対する偏見を取り除くきっかけを作ってくれたのは、指原さんの存在が大きかったと今でも思います。HKT48に移籍されてからも、卒業されるまで、ずっと応援していました。
アイドルグループも秋元康さんというエンターテインメント界の天才の手腕にかかると、様々なコンテンツがこんなにも良質になるものなんだなと驚愕しました。一般層からは握手会商法の件で揶揄されることもありましたが、今思えば握手会があれだけ盛り上がったのは、AKB48のパフォーマンスを含めた魅力に取り憑かれて、メンバー本人に会ってみたいという純粋な気持ちの人が、多かったからではないかなと感じました。ちなみにメンバーに感情移入が出来なかったとしたら、自分も握手会には参加することはなかったと思います。
それまでの自分の中でのアイドルのイメージは操り人形。運営の意のままに動き、メンバーの外見が良ければそれだけで良くて、集客が上手くいって金銭的な収入さえ確保できるのであれば、パフォーマンスや楽曲、その他の部分はないがしろにされているという勝手なイメージを抱いていたのですが、AKB48は違いました。少なくとも楽曲に関しては、秋元さんが多岐にわたる作曲家の中から厳選。いわゆる捨て曲と呼ばれるような手抜き作品が少なく、大半の楽曲は素晴らしいと感じました。
勿論、全てのアイドル運営が、ハイクオリティな作品制作を目指しているわけではなく、自分の見てきた地下アイドルの中には、メンバー人気に依存して、特典会での売り上げ確保を優先、ライブでは盛り上がりだけを重要視して、それ以外の要素(ボーカル&ダンス&楽曲)に、そこまでの魅力を感じないグループも一部見受けられました。ただ個人的な意見としては、どんな活動形態であっても、ステージで歌う以上は、最低限の条件として、楽曲が心に響かなければダメだというのが、好きになれるかどうかの判断基準の一つです。その為、見た目が可愛いだけで、曲が全く心に入ってこないグループに、あまり感情移入は出来ませんでした。そういった観点からも、在籍メンバーが多くバラエティに富んだAKB48は、バランスが良いグループと呼んでもよいかもしれません。
そのことが転機となり、AKB48以外のアイドルにも興味を抱くようになると、次第に自分の好みも把握できるようになっていきます。自分は俗にいう楽曲派と呼ばれるようなグループに興味を持つようになり、基本的には明るい気持ちになれて高揚感が湧き上がるポップソングと、心を揺さぶられるような染みるバラードが好きということが分かりました。そういった作風を重視して、興味を持てそうなアイドルを探すことになります。そこで出会えたのが、つりビット、Fullfull Pocket(ex.からっと☆)、RYUTist、sora tob sakana、tipToe.、RAYと言ったグループ。彼女たちの共通点を挙げると、バックに付くプロデュースチームの能力が高いこと、メンバー本人たちも、歌を大事にするスタイルで活動していたことが、惚れ込む要因にもなりました。
アイドルに興味を抱くことになった、もう一つのきっかけを話すと、セルフプロデュースをするアイドルが増えているということです。メンバー自らが楽曲制作を全面的にするアイドルは少ないのですが、ダンスの振り付けや衣装デザイン、イベントや企画の構成&演出、ジャケットやグッズのデザインやイラスト、楽器の演奏といった面で、歌とダンス以外のクリエイティブな部分に、メンバーが直接関与してくるケースが増えました。そういった活動は、メンバーの裏方としての一面を見ることが出きるので、ファンにとっては嬉しいことです。
同時に裏方のスタッフの方々に対しての印象も、変わりました。縁の下の力持ち的な意味で、アイドルグループを構成する為に、必要不可欠な存在であると再認識。運営の風通しが良く、ファンから運営も含めて支持されているグループは、長続きする傾向が強いように思えます。映画や舞台などは、どんなに素晴らしい演技をする役者がいたとしても、それだけで作品を完成させることは出来ません。監督を始めとしたスタッフ総員で作り上げるものです。それなので創作の中でも、音楽だけが演者のセルフプロデュースに拘る必要はなく、良い作品を作るためであれば、分業制で楽曲を作り上げていく行為は、悪ではないと感じるようになりました。