音楽談話 #018「女性アイドルグループに対する価値観が変わったきっかけ」

アイドルとしてのプライド

最後に挙げるのは、アイドルに憧れてアイドルになった人間の熱量が素晴らしいなと感じたこと。先述の指原さんもそうなのですが、元々はアイドルファンであって、自分が応援している時に感じていた気持ちを、逆にステージに立つことによって、ファンに返したい。そんな思いから、アイドルとしてのプライドを持って活動されるメンバーも増えた印象です。良い意味での業界の連鎖反応だと思います。

今でも忘れられない光景があります。Fullfull Pocketの前身グループ、からっと☆が解散に追い込まれたときのことです。からっと☆というグループは、2012年に『日本唐揚協会公認からあげ親善大使』として活動をスタートしたユニットでした。最初は唐揚げにまつわる楽曲を歌い、企画物のような扱われ方をしていましたが、2013年に多田慎也さんが「光」という作品を手掛けたことがきっかけとなり、音楽的な面で進化することになります。多田さんを正式にサウンドプロデューサーに迎えてからは、楽曲への評価が高まっていきました。

⇩からっと☆の転機となった作品は以下のリンクから試聴出来ます！

そして2015年に入ると、「今を生きる」というシングルをリリース。この作品が音楽業界内で高い評価を受けると、その後はアルバムの発売＆全国ツアーへと向かう流れだったのですが、そこで事件が起きます。突然、からっと☆の解散が発表されました。何の前触れもなく、かなり唐突で、あまりに急な話でした。決まっていたライブなどを含めて、イベント類の出演は全てキャンセル、アルバムも発売中止、2015年06月に解散ライブを一度だけやって、全ての活動を終了するというアナウンスが運営からありました。解散に至った経緯などは発表されませんでしたが、急すぎる展開に、メンバー自身ではなく、運営とスタッフの問題であるということは、部外者の自分から見ていてもハッキリと分かりました。

自分は幸運にも解散ライブのチケット争奪戦を制することが出来たので、からっと☆の最後の姿を見届ける為に、ラストライブの会場でもある、表参道GROUNDへと足を運ぶことが出来ました。そして生で拝見出来た解散ライブの中で、印象的なシーンが一つあります。その時のリーダー、中原ありすさんの姿は、今でも忘れることが出来ません。メンバー各々が、解散についての心境を語るMC。その中で突如、心から絞り出すような声で、突然こう泣き叫んだのです。

「大人たちのせいで……まだアイドルを続けたいです、誰か助けてください！」

涙でくしゃくしゃになった顔。その姿を目の当たりにした他のメンバーは、ステージの上で戸惑いながらもらい泣き、それまで盛り上がっていた客席は沈黙、静かな会場にすすり泣く声だけが響きました。当時、若干17歳の女の子に、ここまで言わせてしまったこと、芸能ビジネスの裏を垣間見るようなシーンでした。中原ありすさんのアイドル活動に対する真剣な想い、続けたいと願った気持ちの大きさ、大人の都合で未来が壊されそうになっている姿を見て、気持ちがひしひしと伝わってきました。その日を境に、自分は中原ありすさんのファンになりました。その後、中原さんの想いが通じたのか、メンバーこそ1人減りましたが、残った4人はそのまま新しい運営の元、Fullfull Pocketとして活動を再開することになりました。

自分は理不尽な解散を突きつけられて、思い詰めた表情を浮かべる中原さんの姿を、今でも忘れることが出来ません。運営自身が自分たちへの批判とも取れる、あんなコメント台本を用意するというのは考えにくい為、本心から出た叫び、グループのリーダーとしてのささやかな抵抗だったのかなと今でも思います。(もしかしたら、後でスタッフに怒られてしまったかもしれませんが…。)結局、この件がきっかけとなり、中原さんがグループを卒業するまで、幾度となくFullfull Pocketのライブに通いました。2018年には、中原ありす＆田附未衣愛という、2012年のグループ立ち上げから在籍していた初期メンバー2名の卒業ライブが行われ、中原さんがアイドル活動を終える最後の姿を、生で見届けることが出来ました。

某アイドルのプロデューサーが「僕たちはメンバーにステージで一番輝いてもらう為のサポートしなければならないし、例えば楽曲のオケにしたって、何度もライブで使われるわけだから、常に最高で良いものを作りたい」という旨の発言をされていました。一つのステージをスタッフ含めて総員で作り上げていく、それがアイドルというものなのかなと、そんな風に思います。アイドルという存在そのものに躊躇して、曲をちゃんと聴いたことがない人は、無心で聴いてみることをお薦めします。お気に入りの曲が見つかるかもしれません。